Bini
ビーニ

京都発コンテンポラリー・イタリアンの騎手的存在


イタリアやスイスで得た経験を料理の中に反映させる

京都にあるイタリア料理店は、古都ならではのロケーションを活かした店が多いが「ビーニ」はその代表的な一軒だろう。御所に近い京町家を改装した凛とした佇まい。鉄の看板には「BINI」という文字ともみじが一葉刻まれている。オーナーシェフの中本敬介氏は広島の出身。広島での経験をスタートに東京で修行したあと25歳でイタリアに渡る。

修行先に選んだのはトスカーナ州南部の「エノリテカ・オンブローネ」。そこで出会ったオーナー、ジャンカルロ・ビーニ氏の影響がとても大きかった。冬には手打ちパスタで有名なピエモンテの名店「イ・ボローニャ」で働く生活を4年続けた後、中本シェフはビーニ氏の紹介でスイスへと向かう。スイスでは料理本を出版するなど活躍したのち12年に渡るヨーロッパ生活を終えて日本に帰国。京都に出した最初のレストランは師匠の名から「エノリテカ イ・ビーニ」のちに「ビーニ」と改名。ピエモンテの手打ちパスタを信条とする中本シェフにとって最も重要な食材のひとつが卵。大原の優秀な生産者との出会いが、京都でレストランを開業する重要なファクターとなったのだ。現在の少量小皿のスタイルはスイス時代に築き上げたもの。奥に長い京町家で中央にキッチン、手前にテーブル席、奥にカウンター席というスタイルの「ビーニ」はいまや京都イタリアンを代表する一軒となった。2019年にこの世を去ったビーニ氏も今の中本シェフの活躍ぶりを誇らしく思っているのではないかと想像する。

中本シェフの料理はその根底をイタリア料理に置きつつも時に前衛的かつ個性的。まずは折敷に乗って登場するアミューズ、敦賀の甘エビ、フレッシュチーズ、キャビアをのせた一口サイズのタルトから始まり、発酵菊芋とフォワグラをあわせたピッツェッレへと続く。美作の鹿肉に吉田牧場のチーズ、パルミジャーノ、黒トリュフをあわせた料理はため息がこぼれるようで堪能的のひとこと。旨味が際立ち塩は常に控えめ、それは穏やかな中本シェフの人柄を反映したようで、料理は人柄という金言を再確認させてくれる。コースのハイライトとなるのが二種類のパスタだ。常に長短、卵入りと卵なしという組み合わせを心がけるという中本シェフだが、最後に登場するタリエリーニにイタリア料理に対する強いメッセージが秘められている。イタリア料理の存在証明であるパスタ自体を味わってもらいたいという主旨からソースや具材はあくまでもミニマル、しかししっかりと深い味わい。京町家というロケーションも手伝ってか、現実離れしたような満足感にしばしひたれる。そうした「ビーニ」の世界観を創り出すのはマダムである理恵子夫人の存在も大きい。シャンパーニュ、日本ワイン、イタリア、レバノンと縦横無尽、強弱濃淡をつけたペアリングと心安らぐサービスは、中本シェフの料理を二倍にも三倍にも楽しませてくれるはずだ。

「Ricomposizione di Funghi Maitake(舞茸の再構成)」

今回は舞茸という1つの食材にフォーカスして、本来は廃棄する軸の部分などを乳酸発酵させて舞茸自身を調味するというサステナブル、そして1つの食材が発酵によって旨味を増幅させて一つの料理として完成できるかにチャレンジした一皿です。福井九頭龍の舞茸のクズや軸を乳酸発酵させて抽出したジュースにエシャロットやハーブなどで香りをつけてできた液体に、同じ舞茸を漬けながら炭火で焼いていきます。

ジャガイモと発酵サワークリームのクリームを下に敷き上には吉田牧場さんの熟成チーズを削りかけ、異なるアミノ酸による旨味の増幅も感じて頂けると思います。発酵でできた発酵舞茸の搾りかすも乾燥させ、パウダーにしてかけています。シンプルながら廃棄を限りなく減らせて作った、そして複雑な調理工程でありながらお皿の上は至ってシンプルという当店らしい九頭龍の香り高い舞茸を存分に味わえる一品です。

現在世界では紛争、経済ショック、気候危機、そして肥料の価格高騰などの要因が重なりかつてないほどの前例のない食料危機を引き起こしています。私達料理の世界で生きる人間として、食料の確保が困難になる現実が間近に迫っており、より一層サステナブルな社会を目指す必要があると感じています。

今回のテーマ[発酵]は地球環境を守る一つの手段と考えます。先人からの知恵であり冷蔵技術がない時に食料の保存方法として様々な方法が使われてきました。収穫した貴重な食料を廃棄せず美味しく食材の乏しい季節にも美味しく食べられる素晴らしい技術です。

日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は472万トンと言われています。料理人である私はこれらを早急に少しでも減らす努力をする必要があると感じています。また乳酸菌や麹、酵母など発酵食品に存在する菌は保存の手段だけではなく、旨味を増幅させたり体調を整えたりもしてくれます。今後、発酵という調理技術は私達にとって欠かすことのできないものとなると考えます。


chef profile

中本 敬介
KEISUKE NAKAMOTO

「ビーニ」オーナーシェフ。1971年広島県生まれ。 19歳でアルバイトとして広島市内のイタリア料理店でイタリア料理の世界に入り東広島、東京で修行の後、25歳でイタリアに渡る。「イ・ボローニャ」「サンドメニコ」などの名店で学び2002年、30歳でスイスの「セグレート」及び「アルコーヴォ」総料理長に就任。 2010年に帰国し、京都で自らの店「エノリテカ イ・ビーニ」を開業。その後、店名を「ビーニ」と改め、リニューアルを経て現在に至る。「ビーニ」が醸し出す唯一無二の料理、時間、空間は世界から高く評価され、ミシュランの星を獲得するとともに「50 TOP ITALY AWARD 2022 世界のイタリアンレストランTOP50」では34位に選出されている。


INFORMATION

京都府京都市中京区東洞院丸太町下ル三本木町445-1[google MAP🔗]
Tel:075-203-6668
営業時間:ランチ 12:00〜15:00(L.O. 12:30)※現在は土曜日・日曜日のみ
ディナー 18:00〜23:00(L.O. 19:30)
定休日:毎週終日 月曜日、各週 日曜日のディナー
※香水はお控えください
※スマートカジュアル
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